【キャリアカウンセラーはなぜ「15分の全員面談」に葛藤するのか?】

2021.12.14

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中田順平

大学3年生になると、大学によっては「全員面談」と称して、全ての3年生に面談を行っています。
これは、キャリアセンター(学内のキャリア支援部署)や学部専属の支援室が担当することが多いようです。
「全員面談」となりますと、それなりに時間と労力がかかるため、対応できる学生数が限られます。
概ね1学年400名くらいまでの規模の大学・学部で実施されている印象です。
※学部単位でキャリア・就職支援をされている場合、1学部単位で全員面談をされているところもあります。

弊社のキャリアカウンセラーも全員面談に携わらせていただくことが多々あるのですが、業務の中で抱く葛藤があります。それも、一度だけでなく何度も……。

今回はそんな葛藤についてご紹介します。

結論を先に申し上げますと、抱える葛藤というのは……

「学生が話したいこと」と「カウンセラーが話したいこと(聞きたいこと)」のバランスをどうとるか?
というものです。

学生支援業務に携わった経験がある方や、そうした業務について学ばれた方ほど葛藤されることが多いように思います。

ん?そんなことを今さら?
と思われたかも知れませんね^^;
そんな場合は「葛藤で悩んでいる人に自分だったらどうアドバイスをするか?」という観点で以下お付き合いいただけましたら幸いです。

まずお話の前提として、3年生向けの全員面談について簡単にご紹介をさせてください。
※上記と一部重なりますが、ご容赦ください。

・3年生全員に対して実施する
・1学年(あるいは1学部)あたり、400名くらいの規模の大学での実施が多い
・実施時期は様々(3年次の春学期:4〜6月、秋学期:9,10月あたり等)
・面談時間は学生1人あたり15分〜30分程度
・1回だけ実施というところもあれば、複数回実施するところも。

要としてはこんなところでしょうか。
そして、重要なのは「なぜ全員面談を行っているのか?」です。
概ね3つの目的があるように思います。

全員面談の実施目的
1. (進路希望や就職活動について)学生の現状を把握する ー キャリアセンターが知りたいこと
2. 学生に就職活動への意識づけを行う ー キャリアセンターが伝えたいこと
3. 支援メニュー(講座や相談窓口など)を紹介する ー キャリアセンターが伝えたいこと
このような、教室で行うガイダンスや講座では拾いきれない個人の様子を確認することや、伝えきれないことを伝えるという意図を感じます。

1.については、キャリアカウンセラー(相談員)が自由に質問しながら学生の進路希望や活動状況を確認する場合もありますし、事前にキャリアセンターが項目を設定し、それを元にヒアリングシートを作成している場合もあります。この場合、キャリアカウンセラーはヒアリング項目について、学生に確認することになります。

2.3.については、学生に共通して伝える項目と、個人に応じて伝える項目があるように思います。
(例えば、全員に参加推奨の講座案内に加えて、Uターン就職希望者にはUターン就職講座を案内、というようなものです)

お待たせしました。
ここからが葛藤のお話です。

キャリアカウンセラーが抱える葛藤は、
「学生が話したいこと」と「カウンセラーが話したいこと(聞きたいこと)」のバランスをどうとるか?
というものです。

この葛藤ですが、「事務的」「機械的」にヒアリング項目を学生に確認し、事前に用意してある情報を伝える、という姿勢であれば全く起こりません。相談というよりは、行政の窓口のような感じですね。(親身に相談に乗られている行政の窓口の方が読まれていたらごめんなさい!)
学生の期待に応えよう、学生としっかり信頼関係を築こう、という前提の元に対応しようとすると起こる葛藤なのです。
学生支援経験があるカウンセラーはこのように考えます。

———

この全員面談は、学生にとって初めてキャリアセンターを利用する機会であることが多い。
ここでの第一印象は大切だ。
ここでキャリアセンターに悪い印象を持たれたら、おそらく学生は今後足を運びにくくなるだろう。
場合によっては、足を運ばなくなったり、他の学生にキャリアセンターの嫌な印象を伝えたりするかもしれない。
そうすると、長期的には支援が効率的にできなくなる可能性がある。
(悩みや不安を話したがっている学生に対しては)「親身になって話を聴いてくれる」「信頼できる」
という認識を持ってもらえるような関わりを、この面談でできた方が良いだろう。
この1回の面談だけでなく、長期的に考えて……。

———

面談に来た以上、今抱えている不安を聴いてもらいたい、
気になっていることについてアドバイスが欲しい、という学生はたくさんいらっしゃいます。
こうした学生に事務的に対応すると、信頼関係を築くことは難しくなります。
そのため、しっかり話を「聴く」姿勢が重要となります。それが信頼関係に繋がるからです。
(面談時間が限られていることを学生と共有することや、次の面談を予約することも状況に応じて必要です)
「話をしっかり聴こう」とすると、15分という時間はあっという間に過ぎていきます。
それによって「必要なヒアリング」ができなくなると困るわけで、この辺りのバランスがキャリアカウンセラーにとっては葛藤となります。

面談経験を重ねていくうちに、
「どうバランスをとったら良いのか?」
「面談時間をどう使うと効果的なのか?」
「そもそも信頼関係はどうしたらできるのか?」
といったスキルは高まっていくのですが、経験が浅かったり、あまり関わったことがないケースの学生だったりすると、こうした葛藤が起こりやすいようです。

こうした葛藤について助言を求められた際、私はよく以下のようにお伝えしています。

※キャリアセンターの方針や学生の状況にもよりますので、あくまで一例とご認識ください。

・学生との信頼関係構築を第一に考えることをお勧めします
・そのために「学生が話したいこと」にまずしっかりお付き合いしましょう(傾聴する)
・そのうえで、ヒアリング項目についてヒアリングしましょう
・ヒアリング項目については、極端な話、面談の最後に事務的に数分で聞くこともできます

※面談中に信頼関係ができれば「事務的な話なのですが確認させてください」と数分で確認できます
※返答が浅いものになることは優先順位上仕方がない、詳細は別の機会で聞ける、くらいの認識を許容することが大切です

方針や優先順位を決めておくと、人は判断しやすくなるものです。
当然ですが、実際の対応方針は、キャリアセンターの職員様ともご相談・共有して決めていきます。

今回は、全員面談 = 学生にとってはキャリアセンターとの初接触 = 信頼関係構築の重要度が高い
という認識から起こる葛藤でしたが、

「ひとつひとつの施策や学生との接点がどんな影響を及ぼすのか?」を考えるキャリアカウンセラーほど、
こうした葛藤に遭遇しやすいとも言えます。

事務的に、と割り切ってしまえば一時的には楽なのですが、こうした葛藤があるからこそより良い仕事が生まれ、キャリアカウンセラーとしての成長にも繋がると考えています。